小さいものたちへの愛着 (岡 南)

 認知の偏りの特徴として、おおまかに視覚優位や聴覚優位といったことが上げられますが、その他に全体優位性や局所優位性といった見え方の特徴をあげることができます。特に聴覚優位性を持つ人の中に、局所優位性の際だつ人がいます。例えばノートと同様なサイズで、しかも太い2㎝幅のゴシック体で「A」と描かれていたとしましょう。そしてよく見ると、その文字の太さ(幅)の中には、縦横5㎜ほどの小さな「D」が、埋め尽くすように描かれていたとします。これを見た時、真っ先にあなたは全体の形の「A」を意識するでしょうか。それとも部分の「D」を意識するでしょうか。局所優位性の人は、小さな部分にひかれる傾向にあり、物事の全体と言うよりは部分に意識がいきますから、この場合では、小さな「D」を最初に意識します。実際は携帯電話の画面ほどのものであれば、全体を見やすいといいますから、同じ距離でそれ以上大きなものでは、その一部分しか意識されないようです。よって局所優位性の人は、視覚的な小さなものにすーと引き寄せられ興味を抱いたり、細かいものを数多く収集することにもつながります。みなさんの周囲にもいらっしゃるのではないでしょうか。

 例えば洋服を選ぶ際に局所優位性の強い人は、全体のデザインというより、お気に入りの小さなものに目がいきますから、ブラウスを選ぶ際には、生地に小花模様のプリント柄や、無地であるなら小さな飾り刺繍が施してあるもの、あるいは胸元のワンポイントマークに意識がいくことでしょう。抽象的な柄より、花の種類がわかるような具象的な柄を好む場合も多くあります。また曲線の嗜好も伴うこともありますから、ブラウスの襟もとのフリルやギャザーも好まれるかもしれません。
 食器の好みも、小花柄のカップ&ソーサーで、こういった絵柄の場合には、フォルムはお約束のように、曲線が多いものです。壁掛け用の額縁も大変に小さなものを好むことが多く、壁面の全体からバランスを考えるということ以上の小ささを好みます。「小さいものたちへの愛着」と言ってもよいものでしょう。

 これらは女性らしさの一片と思われますが、実は男性の「小さいことへの愛着」もあります。例えばミニチュアカーは、子どものおもちゃと考えがちですが、大人であっても収集している人は案外多いものです。あるいはフィギュアと呼ばれるマンガなどのヒーローを模した特に小さな人形や、お菓子のおまけに付いてくるような極めて小さなものたちを収集し、それらをグループ化し、家の随所に飾り楽しんでいる社会人男性もいます。さらにウサギのような小動物の、それも小さな戯画の絵やカードなどを好む人もいます。携帯電話のストラップやバッグに、そういった小さなものたちをたくさんぶら下げている光景は、駅や車内でよく見かけることでしょう。

 「小さいものたちへの愛着」は、今に始まったものではありません。実は江戸時代の人も「小さいものたちへの愛着」をもっていました。町人や侍文化の中で、巾着や煙草入れ、印籠などを帯にはさんで下げる時に、落ちないようその紐の端に付ける止め具の「根付」があります。自然の小動物を模したものも多くあり、その小ささとデザイン性、そして彫りの精巧さといい、日常使いの工芸品としては、世界でも異例の質の高さを誇るものです。こうした日本人特有の「小さなものたちへの愛着」は、日本の文化の独自性を世界に広めることに貢献しています。

 その一つが、ジャポニズムです。ヨーロッパを中心として産業と芸術の融合をめざし始められた万国博覧会(1851年ロンドンにて初開催)などを通じ、日本の工芸品がヨーロッパへ渡り、多くのヨーロッパの芸術家や工芸家の美意識に影響を与えています。ジャポニズムと言えば、広重や北斎などの構図を模した画家のモネやドガ、ゴッホなどは有名ですが、そればかりではありません。日本の美意識を取り入れ、技術的にも高い評価のガラス工芸家のエミール・ガレ親子を中心とした工芸家たちのデザインや趣向にも、それまでとは異なる「小さなものたちへの愛着」を見ることができます。

 19世紀までのヨーロッパの絵画・工芸の世界で扱われる動植物としては、花鳥や犬猫などまでが一般的なものでした。しかし日本文化のそれは、古来よりそれらに加え、昆虫や爬虫類までのごく小さな生命をも描き、めでていました。それまでヨーロッパ文化には見られなかったトンボ、蟹、中には蟻までをもが絵画に登場し始めたのです。つまりヨーロッパの人々が初めて画面に「小さなものたちへの愛着」を表現しだしということになります。
 先ほどのガレ親子は、そういった日本文化に感銘を受け、制作した中には、コウモリや蛾、オタマジャクシ、貝や海藻、さらにはウニやナマコに近い生物の海ユリ、キノコやモミジ、それまでヨーロッパの絵画のテーマとしてはほとんど注目されなかったオダマキやスミレといった地味な花たちを、モチーフとしたガラス製花器などを、高い技術で制作しています。特に極め付きは、ガラス花器の外側表面を立体的なオタマジャクシが、何匹もとりついているもので、手足の出ていないものあり、足が出かかっているものあり、両手両足そろったものありなどといった、成長過程がリアルに表現されているその名も〈おたまじゃくし/ Vace with Tadpole Design〉です。また家具や調度品にもその傾向は及び、サイドテーブルの天板を、水辺の植生の象嵌であしらったり、また他方でサイドテーブルの脚としてトンボを堂々とモチーフにし、さらに違い棚では飾り支柱にさりげなくトンボを取り入れてもいます。その他にも彼らは家具の扉や側面の鏡板を「小さなものたちへの愛着」の表現の場としているのです。

 聴覚優位性を持つ人々の特性のひとつの局所優位性、あるいは「小さなものたちへの愛着」が、実は私たちの生活の中でも、さらには芸術の表現の一部を形作っているのではないでしょうか。

(おかみなみ / 認知デザイン)

参考:馬渕明子著『ジャポニズム―幻想の世界』ブリュッケ、1997
   土田ルリ子他編、図録『ガレとジャポニズム』サントリー美術館、2008

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  • 岡南著『天才と発達障害―映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル』(講談社、2010)

視覚優位・聴覚優位といった誰にでもある認知の偏りを生かし「個人が幸せになるために」書かれた本です。読字障害(ディスレクシア)でありながら、視覚を生かし4次元思考するガウディ。聴覚を生かし児童文学の草分けでありながら、吃音障害、人の顔や表情を見ることができない相貌失認のルイス・キャロル。個人の認知特徴を生かし「やりがい」をもって生きることについて考える本です。

  • 杉山登志郎・岡南・小倉正義著『ギフテッド―天才を育てる』(学研教育出版、2009)

能力の谷と峰を持つ子どもたちは、認知特性の配慮と適切な教育により、その才能を開花させることができます。ギフテッドの教育の在り方、才能の見つけ方や伸ばし方を解説し、一人ひとりのニーズにこたえる特別支援教育の在り方を提示しています。どの子どもの特性を伸ばす為にも、ヒントになることでしょう。

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