天才と発達障害

―映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル―

岡 南著

 

タイトルに発達障害とはあるものの、認知の偏りは大なり小なりだれにでもあり、それを生かして「個人が幸せになる」ために書かれた、大変興味深くしかも知的好奇心をくすぐる、とても印象的な本です。
 一般の人の思考は言語で行われますが、視覚で思考しているという著者は、大まかに思考のタイプを視覚と聴覚、(その他に全体・局所・色・線のタイプも含め)とに分類しています。日ごろ私たちが何を気にかけているのかということなどから、思考のタイプ(認知の偏り)を知ることができます。そこから学習方法や得手不得手、仕事や趣味、さらには幸せ感をも異なることを、大変身近なことから納得させてくれます。人との「違い」にこそ意味があり、その人らしさがあるというフレーズには納得させられます。読者自身の認知をしり、読みすすむうちに、周囲の人の顔がその認知や行動特徴と共に浮かび上がってきてしまうのは、私だけではないでしょう。

視覚優位が際立ち映像思考する建築家のアントニオ・ガウディは、空間認知に優れている反面、読字障害(ディスレクシア)であるといいます。聴覚優位に際立つ「不思議の国のアリス」の作家として著名なルイス・キャロルは、言語表現が得意でありながら人間関係性に疎い面や、数字や順番・序列が大好き。さらに11人の姉妹と弟たちのうち、キャロルを含め10人までもが吃音障害を抱えていたというのです。そしてなんとキャロルは、人の顔の表情や顔が見えない相貌失認(そうぼうしつにん)があり、それを補っていたのが写真だったというのです。写真の役割に新たな世界を見た思いです。二人の天才の他に、これまた博物学の大家のチャールズ・ダーウィンを複線に、彼とその家族にも、自閉症的癖があったことが書かれています。それでいて日常、目の前にいる子どもたちの、例えば靴のかかとを踏んだままはいているような「だらしなさ」や、文字のアンバランスやリコーダーの運指が苦手というような「不器用」の問題、さらに色の感じ方の違いから、「奥行き感」を理解できず、写真や絵といった二次元に描かれた三次元は理解できるものの、実際の三次元を理解できずに、友達の顔の絵を描けないことや、立体的なものでもフラットに表現してしまう子どもたち、昼より夕方のほうが、物が見やすいという人の視覚について、こういったことが実は神経の特長だったことを気が付かせてくれます。著者はさらに色の認知の問題から、人がどのように空間や時間を感じているのかについても分かりやすく述べています。これは自閉的な人の理解の助けになることでしょう。このような認知の偏りは、優れた部分も際だちますが、その反面家庭や学校、社会で難しい問題も生じます。

発達障害のある子どもたちが持っている特異な才能を伸ばすにはどうしたらよいのか、彼らの優れた部分をいかに引き出していくのかということに、著者は焦点をあてていますが、このことは、一般の子育てのヒントにもなるのではないかと思えます。
多くの文献に裏づけられ、彼らの作品と行動を丁寧に解説し、まさに「眼から鱗」が体験できる一冊です。子育て中の親御さん、人間関係に悩む社会人の皆さん、嫁姑問題を抱えている人、将来の仕事を考えている中学生・高校生の皆さん、もちろん発達障害を抱えている人、教育・医学関係、美術や建築に興味を持っている人など、多くの「人を理解したい」あるいは「あの人、ちょっと?」という経験がある人に、この本は答えてくれるでしょう。
既に教育・医学・脳科学分野から注目され、書評などにも取り上げられているようですが、読みやすく示唆の多い内容です。
ガウディの設計したサグラダ・ファミリアはテレビのコマーシャルで目にしますが、ガウディやルイス・キャロルの人となりを知るうえでも、大いに参考になります。帯には、「十年に一冊の画期的な人智科学の登場」と書かれているように、確かに深く広く精度の高い内容に、魅せられた一冊です。

(R)

*「『天才と発達障害』の著者岡 南さんに、次回よりコラムを担当していただけることになりました。お楽しみに。」