生命力ゆたかな蓬は神代の昔から青々としてあったろう。蚕や稲や粟・小豆・麦・大豆などと、須佐の男の命が下界に降りました辺に出ているから、草ぐらい有ったと思う。(見たわけではないが)
農耕民族の末裔の末莚に辛うじて、猫額の地面を頂戴している私は、春が楽しい。野のみどりを待ちかねる。土が凍らなくなったナと思うと、この短い足どりも軽やかに、日当りのよい畦などを覗いて歩く。指先でつまめる程の、稚いヨモギの葉っぱを待っている。
蓬摘む小川の土手の柔かく しげる
今から少し、健康になるまじめな話を書きましょう。こんな当たり前のことと笑われるのを覚悟して。
ヨモギを食べていれば、いくつになっても若々しくて仙人のようだとて仙人草、万年も生きるでしょうかと万年草。ヨモギは大昔から長寿に益する草と認められていた。ヨモギの薬効成分は非常に多い。各種ビタミン、良質のクロロフィル、カルシウム・カリウム・セルロースなんて並べたのは、本の受け売り。
とも角、血管組織を収斂する働きがあり、潰瘍を治し、細胞組織を再生するやら、解毒作用やら、瘀血を除き血行を良くするので、循環器系の疾患を改善する。神経痛やリューマチの痛みを軽減してくれる。あの苦味、アデニンやコリンが心臓を丈夫にしてくれる、脳の老化を防ぐという。こんな良い薬草が、晩秋まで野山に繁ってくれるとは、天然とは何と有難いことでしょう。
ダイエット好きの若い女性に多い貧血に、医者もすすめるヨモギです。(すすめる医者がいたかな)ヨモギの鉄分は微々たるものでも、ヨモギを摂取することで、他の鉄分の吸収が良くなるらしく、その造血作用は大いに認められています。
ともかく、どさりと採って来て水洗いし、太陽に当て三日間干します。その後、一ヶ月位かげ干しします。これを刻んで、適当に利用するのですが、薬効を期待するなら、三日分を二十四グラムとし、三合半の水で半量になる迄煎じます。これで九服分ですから、毎日、三回に分服します。
入浴にも、煎じてから入れた方が効くそうです。痒みがとれると言います。駆虫薬には、十グラムを水一合で煎じ、塩ひとつまみ入れて飲みます。これは風邪薬にもなります。熱いのをどうぞ。
生葉の搾り汁は、食当りに効くそうですが、私は実験していません。足腰が弱りかけたら、ヨモギを茹でて餅に入れたり、お粥に入れたりすれば、またシャンと若返ります。
籠あけて蓬にまじる塵を選る 虚子
草餅の焼きふくれたる緑かな 杢庵
私の利用法は、
• 摘んできたヨモギの葉を、熱湯に一つまみの塩と共にふり入れ、箸で三度捌くと、すぐ笊にとり上げ、水道水をかけ直ぐに搾る。そして刻んで、蓋付きの小さな器に入れ、冷蔵庫に入れておく。水浸は絶対しません。これを毎朝、御飯の上にまぶして食べる。苦くも、しょっぱくも無い、むしろ爽やかな香気があって大好きです。
• 生葉のてんぷら。これは美味い、食べすぎて時々にきびが出る程です。(これは世記先生の直伝です)
• 生葉のままサラダに入れる。茹でるより食べやすい。
• 草餅にする。ヨモギ餅は飯田に限る、あの黄粉をまぶしたヨモギ餅は絶品と思う。餡の無いのが、また美味しい。
• お粥に入れる。沖縄人になった心地がする。
ヨモギのヨモは「四方」、キは「気」山野の霊気を集めた霊草というわけで、昔の人は、冬の間に衰えた身体の生命力を、ヨモギの苦味で呼び醒ましたと思います。